ゲスト卓話

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株式会社ガイアリンク 取締役副社長 千野 将

 当社ガイアリンクは、アメリカ発の世界的メタバースプラットフォーム「Virbela」の日本公式販売代理店として 2021 年から日本国内へのサービス提供を行なっています。対象領域は産学官民問わず「ビジネス・教育・社会課題の解決」を主軸としたサポートをしていますが、その中で得られた大きな「気付き」がありました。

 それは、複数人が介在する日常のコミュニケーションにておける発言者本人の視覚的要素は、必ずしも最上位にあるものではないのかも知れない、という点です。

 元々 Virbela は 2016 年より北米を中心としてスタートし、Before コロナから本質的なコミュニケーションを行うための画期的ツールとして運用・提供されてきました。行動心理学の専門家たちも開発チームにジョインし、ゲームの様なエンタメ性の高さよりも、どれだけストレスなく日常の業務や学習環境をアップデートできるのか?に重きが置かれ拡大してきたものですから、コロナ禍によりリモートワークを含み全く違う価値観が醸成された現代において正にピッタリなタイミングとして日本に浸透が続いています。

 「見た目がファーストではなくなって来ている」という推論のエビデンスとしては、日頃当社がサポートしているお客様の反応を見ていても顕著です。日常的な社内コミュニケーションや授業などの学習環境はもちろんのこと、学術集会、研修会、1000人以上を超える講演会や地方の商店街、はたまた婚活パーティの自社運営などまでもサポートしている中で、「リアルでのコミュニケーションは、自分の見た目に対してのコンプレックスが何かしら影響していたということが予想以上にありそうだ」というアンケート結果も散見されます。事実、当社の婚活イベントに参加しアバターでカップリングした方々が、現在もリアルでお付き合いしている方が居る程です。

 例えば、2022 年 3月。全国各地に支店を持つ大手企業様が 700 名規模の社内コミュニケーションイベントを行った際のことです。

 大学時代はリモート授業が当たり前だった新卒の若手社員が参加した中で、「今まで同期入社のスタッフのあだ名や趣味すらも知らなかった」「メタバース内イベントに出社するようになり、敬語がなくなりチーム感が増した」「交流が活性化した一方、自分の時間が増えて仕事へのモチベーションが上がった」などのポジティブな反応が 83%にものぼるアンケート結果が出た時が、まさにその確証を得られた瞬間でした。

 必要なことしか話さない超効率化リモート業務が良しとされる反面、日常業務からは余白のコミュニケーションタイムが消え去り、非常に希薄なチームが形成されてしまったことに頭を悩ませる経営者・管理者の方も少なくないでしょう。私たちが黙っていても、今後は「α世代」と呼ばれる多様な価値観を受け入れ、物質的なモノより体験を重視する世代が社会に進出してきます。

 現在はメタバースにスポットライトが当たっているので、「これで根本的な解決に繋がるかも知れない」と世間に大きな期待をされることは我々提供側にとっては大変ありがたいことなのですが、その一方、技術革新に対して表面的に色めき立つのではなく、人としての思考の許容レベルに更に多様性を持たせることが、ニューノーマルの働き方として必要なマインドセットだと言えます。「DX」とは、ただの言葉に過ぎません。メタバースはあくまで受け皿に過ぎず、本当にアップデートしなくてはならないのは我々自身の生き方・過ごし方なのではないでしょうか。